活版印刷好きにはたまらない、LAのプリンティング・ミュージアム

2018年6月、ロサンゼルスに行きました。LAといえばテーマパークだけでなく、スペースシャトルや往年の自動車が見られるミュージアムなど多くの見どころがありますが、印刷が好きな人ならぜひ行ってみてほしいスポットがあります。

それが、「International Printing Museum」。現地滞在中のHさんと行ってきました。この博物館は、ロサンゼルスの中心部から20kmほど南にカーソンという街にあります。およそ20メートル四方の平屋のガレージで、博物館というよりも私設ギャラリーという風情です。個人の印刷機械コレクションを中心に、1988年に設立されたそうです。

International Printing Museum(国際印刷博物館)
315 W. Torrance Blvd. Carson, CA 90745
土曜日の10時から16時のみ開館。火曜から金曜は事前予約制。

入場料は大人10ドル。ツアー込みで、この日はピーターさんによる熱弁あふれるガイドがはじまりました。印刷の歴史を展示された印刷機械とともに巡っていきます。

まずは印刷の起源である、中国の木版印刷の紹介から。版木のレプリカを手渡しながら、「これが当時のスマホ、タブレットだ」と茶目っ気たっぷりの解説。金属活字は、鉛とアンチモンと錫の合金だと紹介され、その場で溶かした合金を型(活字母型・字母)に流し込んでくれるではありませんか。ちなみに印刷所では、アルファベットの大文字の活字ケースを上段、小文字のそれを下段に置いていたから、大文字をuppercase、小文字をlowercaseと呼ぶんですね。

その場で鋳造してくれた活字。うまく鋳込まれていないのはご愛嬌。

15世紀に考案されたヨハネス・グーテンベルクによる印刷機の復刻版があり、「42行聖書」の版のプレスが実演されました。その後、おもに19世紀から20世紀にかけて改良されていく何種類もの印刷機が展示されています。印刷機の歴史を振り返ると、インクやプレス、紙送りなどの各工程を自動化し、より高速に印刷しようとする工夫がつまっていることがわかります。驚くのは、どの機械もちゃんと動くこと。しっかりメンテナンスされているのが伝わってきます。

グーテンベルクの印刷機で聖書をプレスする

ガイドの最後に、行単位の活字を鋳造するライノタイプのデモンストレーションもやっていただきました。ライノタイプはいろいろな博物館の展示で目にしてきましたが、実際に稼働している様子を見たははじめて。タイプすると、ほとんど待つことなく活字が出てきます。できたての活字はほかほかでした。

ライノタイプで鋳造された活字。じぶんのフルネームをタイプしてもらいました。

毎年秋には、「ロサンゼルス・プリンターズ・フェア」(Los Angeles Printers Fair)というイベントが開催されているようです。全米から、多くのブックアートやファインペーパー、活版印刷機械などの展示が集まるようです。

ところでこの日のツアーは、私たちのほかにもう一組のお客さんと一緒でした。お父さんと小学生の男の子の親子です。ガイドさんが新聞とってますかと訊くと、お父さんは「うちではNew York Timesを読んでいる。うちでTimesといったら、LA TimesじゃなくてNew York Timesのことだよ」と答えていたので、ただ者ではなさそうです。

さて、ライノタイプ鋳造体験のとき、お父さんはタイプする文字を「PES Film」と指定していました(わたしにも見えるように示されていたので、のぞき見ではありません。なので、ブログに書いてもよいと判断しました)。ご自身の名前ではなく、会社名のようです。Filmとあるので映像プロダクションかな、さすがハリウッドのお膝元だなあ。でも、どこかで聞いたことがある気がします。ミュージアムをあとにして検索してみたところ、PES Filmとは、あの独特のストップモーションアニメーションで有名なスタジオでした。彼は、アニメーション作家だったのです。この日いちばんの驚きでした。