「ネット時代のフォークロア創造」 モバイルコミュニケーション研究会に参加しました

2021年5月15日、オンラインで開催された情報通信学会モバイルコミュニケーション研究会に討論者として参加しました。貴重な事例報告をきく機会をいただきました。研究会のみなさん、ご縁をいただきありがとうございます。

タグチヒトシさん
杉本

アートグループGRINDER-MANのタグチヒトシさんが演出された現代芸能『獅子と仁人』の報告にコメントを寄せました。『獅子と仁人』は、沖縄の獅子舞、音楽、唄、ダンスパフォーマンスに加え、リアルタイムCGが合成されたライブ映像です。新型コロナウイルス感染拡大によって本来の公演は中止されたものの、ストリーミングライブ配信として新たなかたちでの公演が試みられたとのことです。

本作は、現代的な装いの獅子のパフォーマンスなど、見どころの多い作品です。それだけでなく、舞台上を動き回る大胆なカメラワークでライブ配信する意欲的な試みでもあります。2020年、コロナ禍で次々に舞台公演の場が失われていく大きな制約のなか、表現者が新しい見せ方をつかんでいく過程を見ることができ、勇気づけられました。また、テクノロジーを駆使しながらも誇示しない作品構成のバランス感覚にも唸らされました。とくに再撮影版ではCGの要素を減らしていることに感心しました。

沖縄の獅子舞という伝統文化に、現代的な技術が重なることで、あらたな魅力を獲得していました。コロナ禍で伝統文化の継承が危惧されているなか、このような試みで伝統が生き続けていることに注目します。ライブ配信では海外からのアクセスも多かったそうで、地理的な条件にしばられないグローバルな展開が期待できます。

わたしからはタグチさんに、今後の展開についてお訊ねしました。コロナ禍はいつか終息し、パフォーミングアーツの公演は息を吹き返すでしょう。ただし、長期間これまでの公演形態が制限され、ライブ配信が身近になったという大きな変化を存在しなかったことにはできません。今後は、劇場に足を運ぶ人だけでなく、スクリーン越しの観賞を求める人たちも増えていくのではないでしょうか。そのとき、多くの観客と同時に観賞するという体験がどのように変わるのかに興味を抱きました。その体験をデザインする演出家の果たす役割はより重要になりそうです。

もう一人の討論者の藤本憲一さんと司会の伊藤耕太さんからは、お二人とも本作の世界観や読み取れる物語からつぎのような指摘がありました。藤本さんは、本作から、「脱魔術化」(ウェーバー)した合理的社会ではなく、「再魔術化」した多神教的世界を見出したそうです。伊藤さんは、本作から読み取られる物語から、ベンヤミンが「複製技術時代の芸術作品」で論じた礼拝的価値から展示的価値への移行から、再び礼拝的価値へ回帰しているのが興味深いとおっしゃっていました。

今回の研究会がオフライン開催だったら、研究会メンバーの方々をまじえて議論が盛り上がったはずです。それがかなわなかったことは残念でしたが、つぎに直接お会いできる機会を楽しみに待つことにします。

『獅子と仁人』は、再撮影された映像版がVimeoでオンデマンド配信されています。レンタルまたは購入できますので、関心のある方はぜひご覧ください。

https://vimeo.com/552250238
Vimeo配信の予告編

The Ancient Lion and Modern Man – 現代芸能『獅子と仁人』 | Facebook


2021年度 第1回モバイルコミュニケーション研究会のお知らせ

テーマ: ネット時代のフォークロア創造〜リアルアイムCGを用いたAR表現を題材に
日時:2021年5月15日(土) 13:00~15:00
場所:オンライン開催
報告者:タグチヒトシ(演出家)
司会:伊藤耕太(マーケティングディレクター、関西大学非常勤講師)
討論者:藤本憲一(武庫川女子大学教授)・杉本達應(東京都立大学准教授)

概要
報告者であるタグチヒトシ氏がコロナ禍において演出を担当した現代芸能『獅子と仁人』(ししとひと)は、身体表現とデジタルテクノロジーの融合による、オンラインでのみ完成する舞台作品かつ映像作品として公演されました。獅子舞、ダンス、生演奏、CG合成によるAR表現がオンラインでリアルタイムに融合し、沖縄から世界への配信を通じて鑑賞する観客は、舞台上に立っているような臨場感の中で、しかも肉眼で見るのよりもリッチな映像として、作品世界を体感することができます。本研究会では、本作を中心としたタグチ氏の実践と、インターネットやデジタル技術や駆使した映像体験で試みるフォークロア(伝承)創造の可能性について議論したいと思います。

(報告者プロフィール)
タグチヒトシ(演出家)
1973年横浜市出身、筑波大学芸術専門学群総合造形学科卒。演出・振付を駆使して生みだすのは「いま・ここ」の身体表現。2008年に株式会社イッカクを設立。現代という時代を創造し、表現と社会の新たなかかわりあいについて、その考察と実践を進めている。文化庁芸術家海外研修でニューヨークに滞在(2016年)。文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品「HERO HEROINE」(2019年)。
『獅子と仁人』は、沖縄県宜野座の創作エイサーLUCKと、アートグループGRINDER-MAN、ビジュアルデザインスタジオWOWのコラボレーションによって、2020年11月に宜野座村文化センターがらまんホールからストリーミング配信にて発表。2020年12月には文化庁芸術文化収益強化事業に採択され、2021年2月に再収録。2021年4月から新版「The Ancient Lion and Modern Man」がVimeo On Demandにてオンデマンド配信中。
https://www.facebook.com/shishitohito/

参加費: 無料
申込方法: 以下のサイトよりお申込みください。

モバイルコミュニケーション研究会|情報通信学会 -JSICR-