2017-11-19 Floating Urban Slime / Sublime クリエイターズ・トーク

広島県のアートギャラリーミヤウチで、 クロスジャンルの展覧会「Floating Urban Slime / Sublime」がはじまりました。

わたしは、ディレクターの稲川豊さんと共同で、オンラインのカウントダウン・プロジェクト「FUSS Countdown」に参加しました。コントリビューターが提供したテキスト、イメージを組み合わせ、会期前の81日間かけて、毎日1つのコラージュ・イメージを投稿しました。日々のイメージは、単体では意味不明。謎めいた展覧会を予告する謎めいたカウントダウンとして制作しています。英語と日本語のテキストの断片があらわれていますが、おそらく多くの人が母語に近いことばだけを読むでしょう。もう一方のことばは対訳なのか、あるいは呼応しあっているのか──。展覧会場では、すべてを通して見れますので、あらたな見方ができるはずです。

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このカウントダウンのプロセスでは、ことなる種類のテキストを断片化しました。そこではテキスト特有の力をまざまざと感じさせられました。どのような表現方法をとったオリジナルテキストであれ、断片化されてもなお、消すことのできない書き手の痕跡が浮かび上がってきたからです。テキストを切り刻み、つなぎあわせる「カットアップ」という創作手法を世にひろめた、ビート・ジェネレーションの作家ウィリアム・バロウズのことば通りだと再確認します。

 「時」のなかにきみをとどめる言葉の糸を切断せよ……鋏、ナイフを用いて、いくつかにちょんぎれ……「空間」にその糸を展べよ。きみ自身が書いた一頁、手紙であろうと、またきみ以外のどんなやつの書いたものでもいい、死んでいようと生きていようとかまわぬ。一頁、それより少くても多くてもいい、そいつを小間切れにしてしまえ。真中を切断せよ。両端を十字に切り裂け……切断した部分を配列し直せ……出来上ったメッセージを記せ……

どんなに切り刻んで配列し直しても、もとの言葉を書いた人間はそこに存在する……どんなにずたずたにしてもランボオはランボオだし、メルヴィルはメルヴィルである……シェークスピアはシェークスピアの言葉で動く……といった次第で、ランボオの言葉を切り刻み、ランボオの言葉を喋べり、ランボオのように考える人は、誰でもランボオになれるのである……加えて適当に肉をつけることですな。あらゆる死んだ詩人や作家たちは、かくしてそれぞれの宿主のなかに甦る。

(「ウイリアム・バロウズの『殲滅者』」・『鮎川信夫全集IV』思潮社、2001所収)

展示会場は、まるでインストールの最中のようで、渾沌としていました。あたり一面に大小さまざまな角材や板材や布。それらが、床や壁に置かれていたり、宙に浮かんでいたりして、作品の鑑賞をさえぎっているかのようです。いやひょっとすると、これら全部が展示物なのかもしれません。でもそうだとしても、それぞれの物体が作品なのか、什器なのか、仮組みの構造物なのか、判然としません。作品一覧のペーパーは用意されていますが、どうやら複数の作品が絡んで置かれているようで、だれの作品なのか、はっきり見極めることすら困難です。キャプションや解説パネルのようなものは、当然のようにどこにもありません。この展示会場に野心あふれるアーティストが訪れたら、こっそりと自分の作品を紛れ込ませたり、なんらかの痕跡をのこす衝動にかられるかもしれません。

とはいえこの奇妙な会場は、ただ乱雑をきわめているとは言い切れない不思議な一体感を醸し出しています。素材の質感や細部に集中していても、同時に全体の配置や関連も気になります。カメラで撮影するなら、いくつもの種類のレンズを必要とする感じ。面倒なようで意外とたのしくなってきます。歩き回っているうちに、会場は一定のトーンを帯びはじめ、展覧会の性格を強く主張しているようにみえるのです。その主張は、確実な真実を求めてもたどりつきにくい、フェイクニュースあふれるインターネット社会を反映しているのかもしれません。確かなことはわかりませんので、そのあたりは鑑賞者の解釈にゆだねられているのではないでしょうか。

さて、オープニングは体調不良で残念ながら参加できなかったのですが、初日のクリエイターズ・トークに行ってきました。アートギャラリーミヤウチの今井みはるさんに久しぶりに再会しました。

このクリエイターズ・トークに驚かされました。参加作家が自分のことばを語るのかとおもいきや、さにあらず。このイベント自体が実験的パフォーマンスだったのです。

オーディエンスは、会場内の椅子にそれぞれ別々の方向を向いて座っています。Macが読み上げる自動音声のテキスト、参加作家による指示されたテキストの朗読、ハミングの多重奏などが、いくつかのスピーカーから何重にも遅延して耳に届きます。音声の発信地である、ガラス張りのオフィススペースはラジオの公開収録スタジオのようで、オーディエンスによる集団聴取のような不思議な空間ができていました。

#floatingurbanslimesublime #たゆたう粘縮

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今回ふだんの活動とはことなる人たちの創作にふれることができ、おおいな刺激をうけました。

Floating Urban Slime / Sublime
http://miyauchiaf.or.jp/agm/exhibition_fuss.html

会場:アートギャラリーミヤウチ(広島県廿日市市宮内字高通4347番地2)
会期:2017年11月18日|土|- 2018年1月8日 |月・祝|
開館時間:11:00 – 18:00(最終入館は17:30)
会場:2F展示室
休館日:火・水曜日、12月30日−1月3日
観覧料:一般300円 [200円] 学生200円
*[ ]内は10名以上の団体料金、高校生以下または18歳未満・各種障害者手帳をお持ちの方は無料

参加クリエーター(居住国):
稲川豊(日本)|イワフチメグミ(日本)|We+(日本)|ウォン・ピン / 黃炳(香港)|小野環(日本)|勝目祥二(STUDIO NIJI)(日本)|シュシ・スライマン(マレーシア)|ジー・ヤン・ボー / 巫思远(シンガポール)|ジェームス・ブルックス(イギリス)|杉本達應(日本)|ニコラ・モリソン(イギリス)|ヒロコ ナカジマ(香港)|ピーター・ヨウ(アメリカ)|フア・クアン・チェン・サイ / 陈赛华灌(シンガポール)|マーティン・トーマス(イギリス)|松延総司(日本)|三上清仁(日本)|ルーパート・ロイデル(イギリス)|Lens(日本)|山田亮太(日本)

共催:公益財団法人みやうち芸術文化振興財団
助成:NATIONAL ARTS COUNCIL SINGAPORE
協力:Edouard Malingue Gallery、小山登美夫ギャラリー、HAGIWARA PROJECTS

企画発案/ディレクター:稲川豊|企画協力:兼本ひとみ(STUDIO NIJI)
デザイン・ディレクション:STUDIO NIJI
FUSS カウントダウン:杉本達應&稲川豊
メディア・パートナー:Glass Magazine