『Code as Creative Medium』日本語版が出ました

2022年1月25日、『Code as Creative Medium』の日本語版がビー・エヌ・エヌから発売されました。アートやデザインの分野でのプログラミング教育をテーマに、カリキュラムや教育方法を構築する参考となるための学習課題や教育者へのインタビューなどから構成されています。多くの学習課題や作品例を見ることができ、教育者の貴重な体験談を読むことができます。プログラミングの「教育」にフォーカスし、技法書ではないのでプログラミング言語のコードは登場しません。

http://www.bnn.co.jp/books/11411/

杉本は原書インタビューに寄稿し、共同翻訳者としてもこの本に関わりました。

日本語版発売を記念して、杉本の視点から本書を紹介します。

インタビューから刊行まで

原著者のテガ・ブレインさんとのZoomインタビューに協力したのは、2020年4月中旬のことでした。接続先のニューヨークはパンデミックの真っ最中。日本も緊急事態宣言のなか、新年度の授業をオンラインで行うための準備に追われている頃でした。すでに原書の制作は進んでいたようですが、今おなじ本をつくれば、コロナ禍への対応やリモート授業についての話題が入ったでしょう。

その翌年の2021年2月には原書が刊行され、さらに1年後の2022年1月に日本語版が刊行されました。かなり早く邦訳が出たのではないかとおもいます。

翻訳

ほかの翻訳者は、米田研一さんと澤村正樹さんです。米田さんは、クリエイティブコーダーです。澤村さんとは、『Generative Design』の日本語版でもご一緒しました。杉本は、第3章インタビューの翻訳を担当したため、自分のぎこちない英語を、さらにぎこちない日本語へと翻訳するという奇妙な経験をすることになりました。第1部、第2部の学習課題やエクササイズには、膨大な参照資料があるため、翻訳にあたった米田さんと澤村さんのお二人はたいへんな労力を注がれたこととおもいます。

原著者のゴラン・レヴィンさんとテガ・ブレインさんとは、データのやりとりで連絡をとりあうことがあり、親切に対応していただきました。感謝します。

日本語版オリジナルコンテンツ

ビー・エヌ・エヌ編集者の村田純一さんは、制作を進行しながら、日本語版のオリジナルコンテンツをあっという間につくりあげました。日本でこの分野の教育にあたられている方々です。五十嵐悠紀、鹿野護、久保田晃弘、小林茂、城一裕、高尾俊介、田所淳、玉城絵美、橋田朋子、古堅真彦、米田研一、脇田玲。

教育者たちの言葉

本書でもっとも印象に残るのは、第3部インタビューの教育者たちの言葉です。所属している組織によって状況は違いますが、みな口を同じくして学生たちの恐怖心を取り除くことの大切さを語っています。また教師が抱える不安も吐露されています。「教室運営のテクニック」のセクションには、彼らがあみだした授業を円滑に進めるための工夫がたくさん紹介されています。わたしも自分の授業でいくつか取り入れています。オンラインコースでもいろんなことが学べる現在、教育者にはたんなる知識伝達者以上の役割が求められているでしょう。

学生は、どんな宿題よりも、あなたの優しさをずっと覚えているでしょう。
──ホリー・オードウェイ

学習課題の起源

本書には「学習課題の起源」というセクションがあり、ぜひ注目してほしいです。英語圏に偏ってはいますが、アート・デザイン系のプログラミング教育の系譜がたどられています。どちらかと言えば標準化に向かう理工系のカリキュラムとは異なり、アート・デザイン系の課題には、前の世代の教育者からの影響が見られたり、創作者としての発想をベースにしていたりと、やや属人的な性質がありバリエーションも豊かです。

このセクションでは、そうした学習課題やシラバスが消え去っていることについて問題提起しています。課題がもとになって素敵な作品ができることはよくあります。偉大な作品は美術館などでアーカイブされます。しかし一方で、それを生み出した教育内容や課題は残っておらず、残そうとする努力も払われていません。インターネット上のコンテンツも、年月がたてばたやすく失われてしまいます。たった数十年前のことすらたどれないのは、この分野にとっては大きな損失です。本書は紙に定着された一つの記録として貴重ですが、これ以外の記録がなかったことになってはいけません。わたしたち教育者ひとりひとりが活動内容を保存しておく必要があることを教えられました。

英語版との違い

めずらしい横長の判型は、日本語版でも踏襲されています(普通の本よりもコストがかかるそうです)。なお原書のレイアウトは、スクリプトで生成されていて、MarkDownで書かれた原稿から印刷用のデータを生成しています。

ただ日本語版のカバーは、英語版とちょっと違います。原書をお持ちのかたは、ぜひ見比べてみてください。カバーのイメージは、アルゼンチン出身のアーティストManolo Gamboa Naonの作品です。表紙は英語版と同じように見えますが、微妙に違うバージョンが使われています。裏表紙には、英語版とは異なる作品が使われています。今後、別の言語版が登場したら、同じように少しずつ表紙が変わっていくかもしれません。

関連リンク

Processing開発者のケイシー・リースによる序文が公開されています。

https://note.com/bnn_mag/n/n9d5ab560ee1a

本書のサポートサイトには、本文中に登場するすべてのURLリンクが掲載されています。これを見るだけでも膨大な資料にあたっていることがわかります。整理し公開していただいた村田さんの心意気に感激です。

http://www.bnn.co.jp/specially/cacm-jp/

エクササイズの作例が掲載されているGitHubリポジトリです。

https://github.com/CodeAsCreativeMedium/exercises

書誌情報

ゴラン・レヴィン、テガ・ブレイン著、澤村正樹・杉本達應・米田研一訳,2022『Code as Creative Medium[コード・アズ・クリエイティブ・メディウム]―創造的なプログラミング教育のための実践ガイドブック』ビー・エヌ・エヌ.
編集:村田純一/デザイン:白川桃子

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