Articles

藤代裕之,2017,『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』光文社.

ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか (光文社新書)
藤代 裕之
光文社 (2017-01-17)
売り上げランキング: 2,620

 

本書は日本のネットメディアのなかで、立ち位置がことなる5つのメディア、Yahoo! JAPAN、LINEニュース、スマートニュース、日本経済新聞電子版、NewsPicksの関係者を取材したルポルタージュだ。これを読むと各メディアの知らなかった内情がわかる。本書に描かれていることがらは、ネットメディアの業界関係者なら常識かもしれないが、利用者の立場からはなかなか知りえない裏舞台だ。各メディアの動向を知ることは、ネットメディアを漠然と利用していた者にとって、日ごろの情報収集を反省的にとらえることができ役に立った。ここに描かれているのはほんの一端なので、さらに細かい裏舞台を描いた骨太のルポルタージュを読みたくなった。

ここでは本書の内容にくわしく立ち入ることはしないが、いくつか気にとまったことをメモしておく。ヤフーの章では、筆者がYahoo! JAPAN社長への取材がかなわなかったことをYahoo!個人で批判して炎上した記事の顛末が書いてある。スマートニュース創業時のサービス設計の話は、スマホを前提としたプラットフォームを試行錯誤して構築してく様子がかいまみえ、とても興味深かった。本書に取り上げられている5社以外にも、日本にはネットメディアが多数ひしめきあっている。2017年のいま、日本のネットメディアを取材対象とするのなら、急成長しているBuzzFeed(バズフィード)日本版は外せないだろう。バズフィードについては第7章で触れられてはいるが、ほかのメディアと同じように掘り下げた中身を読みたい。

本書は、もともと『猫とジャーナリズム』というタイトルだったそうだ。この奇妙なタイトルはネットニュースの特徴をあらわしている。「猫」とはかわいい猫写真が並んでいるソフトニュースのこと、「ジャーナリズム」とは社会的な硬いニュースのことを指している。ソーシャルメディアでシェアされるソフトニュースはPV(=広告収入)を稼げる一方、既存メディアではトップ扱いの硬いニュースはネットではアクセスが低調で扱いが下がっている。こうした状況のなかでさまざまなニュースを取り扱うプラットフォームは、どの記事をどのように取り扱うかのさじ加減がきわめて重要になる。この編集作業こそがネットメディアの核心であり各サービスを性格づけている。この部分を経験豊富な人間がきめ細かく行うのか、アルゴリズムで最適化するのかは、それぞれのサービスによって様々だ。またそうした掲載指針をステートメントとして表明しているかどうかも各社違いが見られる。

この軸だけで十分だったようにおもえるこの本は、2016年の米大統領選での偽ニュース騒動を契機に「偽ニュース」を軸に編集しなおしたという。まるで話題のキーワードである「偽ニュース」がタイムリーに本になったようにみえる。とはいえ本書は「偽ニュース」問題が中心にあるのではなく、あくまで2016年時点における日本のネットメディア各社の編集・運営方針についての取材記である。

本書を読んでさらに知りたくなったことがある。それは、ネットメディアの重要なプレイヤーである「読者」と「広告」との関係だ。元新聞記者・ジャーナリストとしての筆者の視点は、当然記者や編集者といった「書き手」に立っているが、読者や広告によっても編集のあり方が変わりうるだろうからだ。

既存メディアとネットメディアでは読者の存在感が大きく違う。ここでいう読者は、単に記事を読むだけではなくその記事をもとにアクションを起こす人も含んでいる。ネットメディアの読者は、偽ニュースやステマにだまされる無知な被害者だけでなく、記事の死角を指摘し、疑惑を検証し、裏を読む者もいる。もちろん既存メディアの読者にもそうしたアクションを起こす人はいるが、可視化されていなかった。読者のなかにも特定の分野に長けた専門家がいることがはっきり分かるネットでは、既存メディアとはことなる読者とのつきあい方をしなければならない。もはや送り手とオーディエンスを一方向的につないだ単純なメディアの構図ではとらえきれない。

もう一つは広告だ。ネットメディアの編集は、アドテクと称される広告の配信技術や支払い方法などの「アーキテクチャ」に大きく左右されているように感じる。その証拠に、読者の利便性を損なうにもかかわらず、PV至上主義による広告枠の水増し、記事ページ分割、スライドショーなどが横行している。

わたしは、多くの読者が「偽ニュース」ではない良質なニュースを求めているし、アクセス数だけでは測りきれない「記事のクオリティ」が存在すると信じている。読者が知らなかった世界をひらき、それまで認識を変えてくれるような、はっとするような記事や記者には賞賛の声を送りたい。だけど今あるのは、SNSやソーシャルブックマークでの反射的な反応が盛り上がっては忘れ去られる。そこには皮肉や冷笑など、ネガティブな反応が必要以上に目立っている。紙の時代にはできなかった、個々の記事へのアクセスの詳細な分析から、読者の建設的な反応をかえす流れはつくれないだろうか。分析を広告収益を最大化するためだけに使うのでなく、記者への還元を最大化できるようになれば、結果的に記者・読者双方の満足度が向上するはずだ。これはネットメディア単体で解決できる問題ではなく、広告業界やSNS、検索エンジンのあり方も含めインターネットの情報流通をどうするかのビジョンにかかわる。もしかすると、このような仕組みづくりに、スマートニュースの共同創業者・鈴木健の仮想貨幣「PICSY」のような概念が使えるのかもしれないと妄想がふくらんだ。

書誌情報

藤代裕之,2017,『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』光文社.

目次

  • はじめに──「偽(フェイク)ニュース」が世界を動かす
  • 第1章 戦争前夜 偽ニュースはなぜ生まれたか
  • 第2章 王者ヤフーの反撃
  • 第3章 負け組LINEの再挑戦
  • 第4章 戦いのルールを変えたスマートニュース
  • 第5章 課金の攻防・日本経済新聞
  • 第6章 素人のメディア・ニューズピックス
  • 第7章 猫とジャーナリズムと偽ニュース
  • 著名ブロガー、ジャーナリストへのインタビュー
    • 山本一郎(投資家、ブロガー)
    • 石戸諭(ジャーナリスト、バズフィード日本版記者)
    • 新谷学(週刊文春編集長)

リンク

「データの見える化による地域課題解決ワークショップ」第2回で話題提供しました

2016年11月25日、佐賀大学で開催された「データの見える化による地域課題解決ワークショップ」第2回で、第1回にひきつづき話題提供しました。

Code for Saga(コードフォーサガ) × 佐賀大学
「データの見える化で地域課題を解決しよう」第2回
http://code4saga.org/archives/385

私からは、データビジュアライゼーションのデザイン指針の考え方とツールを紹介しました。

後半のアイデアソンでは、いくつもの「見える化」のアイデアが発表されました。

わたしのスライドはこちらです。
杉本達應,2016,「データビジュアライゼーションのツール」。

Code for Sagaの牛島清豪さんによる活動レポートです。

データの見える化による…ワークショップ第2回目 | Code for Saga

「データの見える化による地域課題解決ワークショップ」第1回で話題提供しました

2016年10月28日、佐賀大学で開催された「データの見える化による地域課題解決ワークショップ」第1回で話題提供しました。

アーバンデータチャレンジ2016キックオフ!
Code for Saga(コードフォーサガ) × 佐賀大学
第10回井戸端会議「データの見える化で地域課題を解決しよう」
http://code4saga.org/archives/366

近年、ビッグデータやオープンデータが増えているのに伴い、その分析や可視化について注目されています。データビジュアライゼーションは、大企業やメディアが制作する大規模なタイプと、個人でも制作できる小規模なタイプに分類できます。個人レベルといっても、D3.jsやE2D3、Tableau Publicなど、フリーで高性能なツールが充実し、できる範囲がとてもひろがっています。その結果、データ分析の業務以外でも個人の「たのしみ」(趣味)としてデータビジュアライゼーションに取り組むことが比較的簡単にできるようになりました。

データビジュアライゼーション自体に地域課題を解決するほど強力な力はないとおもいますが、議論の糸口になることは確かです。個人の生活者の視点で、日常生活で困っていること、もっとよく理解したいことなどをテーマにデータの可視化に取り組むことは、地域をよりよくすることにつながります。

参加者は社会人の方が中心でしたが、学生も数名来てくれていたのが個人的にはうれしかったです。

わたしのスライドはこちらです。
杉本達應,2016,「地域の可視化をたのしもう」。

ゲストで話題提供された矢崎裕一さん(Code for Tokyo)もスライドを公開されています。

Code for Sagaの牛島清豪さんによる活動レポートです。

データの見える化による地域課題解決ワークショップ第1回目 | Code for Saga

World Data Viz Challenge 2016で発表しました

2016年10月15日・16日に、神戸市国際会議場で開催された「World Data Viz Challenge 2016」2nd Stageで発表しました。

World Data Viz Challenge 2016
神戸市、バルセロナ市連携まちづくり×ICTをテーマとする、データビジュアライズの国際ワークショップ & ツアー

バルセロナで開催された1st Stageには参加できませんでしたが、神戸で参加者のみなさんのプロジェクトを見れてよかったです。国際イベントと銘打たれていますが、スペインからの参加者がいなかったのは残念でした。

キーノートスピーチで、山道佳子さん(慶應義塾大学)によるバルセロナの都市計画の歴史にかんするお話があり興味深かったです。

バルセロナ市は、古くから計画的に都市が設計されていたことがわかりました。自動車が生まれる以前から、とても幅の広い道路をそなえていて、いまでは車道や広場に活用されているのには感服です。現在バルセロナ市は「City OS」というコンセプトを掲げスマートシティで先進的な取組をしています。その行政主導で総合的な「都市づくり」は、日本でいう「まちづくり」とはずいぶん様相がちがいます。ただ貪欲に新しい技術を都市づくりに活かしていくスピード感には学ぶところがありそうです。

神戸市がスマートシティに?連携するバルセロナ市の現在(矢崎裕一) – 個人 – Yahoo!ニュース

わたしが発表したのは、「街のイメージ」を感じることができる観賞型のWebアプリ「bibliomaps」です。青空文庫に収録されているテキストから、神戸にかんする地名が載っている作品をつぎつぎにブラウジングできます。地図上に、原稿用紙で表現しました。未公開ですが好評でしたので、そのうち公開できればとおもっています。

杉本達應,2016,「bibliomaps ビブリオマップ神戸版」(未公開)

ケヴィン・ケリー,服部桂訳,2016,『〈インターネット〉の次に来るもの―未来を決める12の法則』NHK出版.

ケヴィン・ケリー,服部桂訳,2016,『〈インターネット〉の次に来るもの―未来を決める12の法則』NHK出版.

〈インターネット〉の次に来るもの―未来を決める12の法則
ケヴィン・ケリー 服部 桂
NHK出版
売り上げランキング: 105

本書は、テクノロジーの進化にともなう長期的な変化のトレンドを「不可避なもの」(The Inevitable)として示している。著者は、『ホール・アース・カタログ』や『WIRED』の編集を手がけたケヴィン・ケリー。テクノロジーを生物進化のシステムになぞらえた、前著『テクニウム』(みすず書房)にくらべると圧倒的に読みやすい。

本書の構成は、過去数十年のデジタルメディアの変化の流れを概観しながら、不可避な「流れ」を解説し、その事例や将来予測を紹介する。個別のトピックは昨今話題の人工知能など最新技術にまつわる事例が多い。ときどき、箇条書きが入ったメモになることもある。本書で分かることは、長期的な流れがつかめるということだ。旧来の世界観を更新しなければならないことを読者にせまるものの、基本的に未来は明るい。将来に向けて具体的に対応策などの処方箋が示されることはない。この流れは不可避なのだから、だれもがこの宿命を甘受するしかないのだ。

全12章は、不可避な変化を示す動名詞のタイトルがつけられている。

  • BECOMING ビカミング
  • COGNIFYING コグニファイング
  • FLOWING フローイング
  • SCREENING スクリーニング
  • ACCESSING アクセシング
  • SHARING シェアリング
  • FILTERING フィルタリング
  • REMIXING リミクシング
  • INTERACTING インタラクティング
  • TRACKING トラッキング
  • QUESTIONING クエスチョニング
  • BEGINNING ビギニング

これらの動詞が日本語ではどのように訳されているだろうか。

  • なっていく
  • 知覚化していく
  • 流れていく
  • 画面で見ていく
  • 接続していく
  • 共有していく
  • 選別していく
  • リミックスしていく
  • 相互作用していく
  • 追跡していく
  • 質問していく
  • 始まっていく
    (p.14)

「はじめに」では、このように日本語訳がかっこ書きされているが、各章の本文では、ほとんどカタカナ表記のままだった。いまや、共有する、相互作用する、追跡する、といった日本語にするよりも、カタカナのままのほうが通りがよい。カタカナ語が氾濫している状況が、世界の変化が「不可避」なほど高速になっていることを反映している。深層学習よりも「ディープラーニング」、「フィンテック」や「ブロックチェーン」というほうが通じるのだ。

本書には多数の先駆的事例が紹介されていて、近年のAIのブームに乗った事例が多い。しかしこれらは、批判や不安を脇に置いた、あまりに楽観的な未来予測である。著者は、「本書では(……)負の側面をあまり取り上げないことにした」(p.363)と断っている。こうした「楽天的な未来への力」を志向する態度こそが、アメリカ西海岸特有の起業家精神の規範であり、テクノロジーのたゆまぬ進化につながる「不可避なもの」の原動力なのかもしれない。

ケリーは、テクノロジーの進化はつねに変化しつづけることだという。あらゆる技術が高速に陳腐化するこの世界では、だれもが「永遠の初心者」(p.18)になってしまう。たしかに、毎日のようにアプリのアップデートを迫られ、使用しているよりもアップデートしている時間のほうが長いアプリもあるほどだ。ケリーのうたう未来世界は刺激に満ちているが、個人的には、このような不可避の力にさらされて、ずっとハイテンションでいつづけられるとは思えない。

ケリーには、心配するなと一蹴されるだろう。いまは不便なアップデートも、じきにユーザの望みを認知化して自動化されるのだから、翻弄されなくなるだろう、と。たしかに大きな流れはその通りだろう。ただ、この不可避の流れに身をまかせるままでよいのだろうか。結局、わたしたちは「永遠の初心者」として、個別のサービスをなんとか使いこなさなければならないのだとしたら、むしろ不便なのではないか。新しいテクノロジーを追う著述家ならともかく、おだやかな生活を送りたいわたしたちが絶えず最新技術をキャッチアップしつづけるなんて耐えられない。読み進めるうちに、ケリーの照らす明るい世界に充満する光に目がくらみ、その光が落とす影はほんとうに何もないのだろうかと狼狽してしまった。

  • テクノロジーの中年 荒木優太,2016,マガジン航.本書の書評のようだが、それは話の枕で、テクノロジーが進化するとアウラも変容すると指摘している興味深い論考。

Kelly, Kevin, 2016, The Inevitable: Understanding the 12 Technological Forces That Will Shape Our Future, Viking.

The Inevitable: Understanding the 12 Technological Forces That Will Shape Our Future
Kevin Kelly
Viking
売り上げランキング: 5,639

オープンキャンパスで模擬講義を担当しました

2016年8月10日の佐賀大学オープンキャンパスで芸術地域デザイン学部の模擬講義を担当しました。

タイトルは、「21世紀のデザインを考えよう」。
短い時間でしたが、「デザイン」という職能の変化と将来についてお話しました。

前半のホートン先生による全篇英語の模擬講義も刺激的でした。
参加した高校生にとっては、現役学生の話や美術館のギャラリートークのほうが身近で面白かったのではないかとおもいます。
今年は学生が1年生しかいませんが、来年度以降のオープンキャンパスでは模擬講義よりも、学生によるプロジェクトの報告などが増えていくとにぎやかでよさそうです。

最高気温38度(!)という暑い日に、全国から多くの高校生に参加していただき、ありがとうございました。

きょうはケータイを忘れてしまったので写真はありません。

2016年前半のビジュアライゼーション10選

この記事は、10 significant visualisation developments: January to June 2016 の日本語訳です。
原著者の許諾を得ています。転載はご遠慮ください。

2016年前半のビジュアライゼーション10選

By Andy Kirk | July 27, 2016
Translation: Tatsuo Sugimoto

1年の中間と最後の節目に、データビジュアライゼーション分野の過去半年間を振り返り、優れたプロジェクト集を編むことにしています。ここにあるのは、主要なプロジェクトやイベント、新規サイト、トレンド、パーソナリティー、概説で、この分野の発展に寄与するものだと感じたものです。

今年はじめに2015年後半のコレクションを発表しましたが、これから2016年前半を振り返りたいとおもいます。みなさんから、もっとも重要だと思われるプロジェクトの提案が寄せられるのを楽しみにしています。

それでは、いつものように順不同でいきます。

1. 気象スパイラル(Climate spirals)

レディング大学の気象科学者、エド・ホーキング(Ed Hawkins)博士による、1850年から現在にいたる世界規模の気温をアニメにした渦巻き状のプロットは、ソーシャルメディアで拡散しました。地球の気候が劇的に変化したことをもっとも納得させてくれる図解であるという人もいました。

2. PolicyVizポッドキャスト

ジョン・シュワビッシュ(Jon Schwabish)のPolicyVizポッドキャストは1年以上つづいています。とくにこの半年間は、この分野全般で頭角をあらわすのにふさわしい存在になったと感じます。ジョンは自然なカリスマ的ホストで、インタビューします。エピソードの中とその合間の両方に、すばらしいリズムを作りあげました。エピソード中は、スタイル、アングル、会話のペースを通じたリズムがあり、その合間には、この分野の多様性をあらゆる角度からカバーしようと連絡帳をたくみに手繰っているリズムがあるのです。例をあげるだけでも、エドワード・タフティ(Edward Tufte)やウィリアム・クリーブランド(William Cleveland)が登場するなど、彼はなかなか声を聞けない著名人にもたどりついています。約20〜25分間という長さは、60分近くの長さになりがちな根強い人気のData Storiesのエピソードへの、つかみやすいガイドになります。

3. リサ・ロスト(Lisa Rost)

リサは、ナイト=モジラ・オープンニュース(Knight-Mozilla OpenNews)のNPRビジュアルチーム内のフェローで、ワシントンDCを拠点にしています。ずっと前からリサと彼女の作品を知っていましたが、この半年間、ビジュアライゼーションの話題に対する貢献において、彼女はますます多作でよく見るようになりました。2つの対照的な成果があります。(1)12種類のツール12種類のライブラリを使いまったく同じチャートを制作する作業を比べた大変すばらしい作品と、(2)NPRにいる期間中、作品に関するブログを毎日書いていることです。わたしは、地球の大陸上にある有名な都市の緯度を並べたこの作品もとても気に入っています。

4. Polygraph

Polygraphは私にとって新しいものではありませんが、2016年のマット・ダニエルズ(Matt Daniels)たちのチームによる作品のクオリティと「興味深さ」(文字通りの意味)は本当にすばらしいとおもいます。Polygraphの目的は、「複雑な話題についてのカジュアルな議論をつくりだす作品」を提供することです。他の多くのサイトと異なるのは、わたしの見るところ、人気音楽の進化ハリウッドの男女格差と映画への影響時代を超えた不朽の名曲などの話題を探究する、ポピュラー文化関連の話題に分け入り、魅力的な一連のデータドリブンの調査へと駆り立てるコアな好奇心が明快にあることです。すばらしいData Storiesエピソード74では、マットの作品関する情報があり議論をしています。

5. レナ・グロージャー(Lena Groeger)の「ビジュアル・エビデンス」記事

わたしのサイトをくまなく読んでいる読者の方は、わたしがレナ・グロージャーのデータビズに関する考えの大ファンだと聞いても驚かないでしょう。以前の投稿(20142015)で彼女の作品を賞賛しましたし、今回ふたたび彼女のすぐれた新シリーズ、鋭い長文の「ビジュアル・エビデンス」記事(Flipboardコレクションはこちら)は、「日常生活のなかのデータとビジュアルデザイン」という関心のとてもニッチな断片の深みに達しています。やかんを火にかけ、紅茶をいれ、読む時間をとりましょう。

6. 上空のスパイ(Spies in the Skies)

これは、すでに受賞歴をもつデータジャーナリズムのプロジェクトで、Buzzfeedニュースのピーター・オールドハウス(Peter Aldhous)とチャールズ・セイフ(Charles Seife)によるものです。FBIと国土安全保障省(DHS)のエージェントが操縦する米国政府の航空機が、アメリカの都市の上空を定期的に航行しているパターンを分析しています。プロジェクトの記事が説明するように、「これまでほとんど世間の目にさらされることのなかった政府の空中監視活動の規模と広がりの実態を、BuzzFeedニュースがはじめて解明」しています。このプロジェクトは、データ処理の高度さ、調査の切り口の見事さ、ビジュアルのすばらしさなど、いくつも核心を突いていて、さまざまな評者から多くの称賛を受けています。

7. 月曜日のリニューアル(Makeover Monday)

これは、アンディ・クリーベル(Andy Kriebel)とアンディ・コトグレーブ(Andy Cotgreave)によるすばらしいコンセプトで、毎週のチャレンジをベースとしています。既存のプロジェクトからデータを取得し、ことなる潜在的な創造の道を探るリデザインを提案することをTableauコミュニティに呼びかけています。年間を通じて、作品のリデザインを制作するたいへん熱心な人々へと広がりました。重要なこととして、ここには無根拠な批判ではなく、全体にしっかりとした建設的な批評精神がありました。

8. 円グラフの研究

ロバート・コサラ(Robert Kosara)とドリュー・スカウ(Drew Skau)は円グラフに関する重要なあたらな研究を共同発表しました。「円グラフだって? 円グラフが悪で本当にダメな理由くらい全部分かってるよ」という人も中にはいるかもしれません。それでもこの研究はたいへん重要です。なぜなら、「円グラフをどうやって読みとるか知っていますか? 一般に言われているように、角度で読みとりますか、それとも円弧の長さで、もしかして面積でしょうか?」という質問に答えるにあたって、ロバートとドリューは、それが角度だという主張を裏付ける研究がなかったことを発見したからです。また、「円グラフを読みとる方法についての常識はほぼ確実に間違っていて、わたしたちが考えている以上に複雑」だったのです。2つの論文が、(1)「円弧、角度、面積:円グラフ、ドーナツグラフの個々のデータのエンコーディング」、 (2)「円グラフのバリエーションにおける判定エラー」を考察しています。

9. 変化を遂げるニューヨークタイムズのインタラクティブ

ニューヨーク・タイムズのだれかが話すと、みなさんは耳を傾け学びますが、アーチー・チェ(Archie Tse)がMalofiej 24〔インフォグラフィックス世界サミット〕で「なぜインタラクティブ要素を減らしたか」というタイトルでトークするときこそ、本当に耳を傾け学ぶときです。わたしはその場にいなかったので、最前線だと確証させてくれたこのトークを見ていません。しかしその内容から重要であることは明らかです。トークの主要な論点を繰り返すつもりはありません。自分でこれを吟味するだけで(とても短いです)、「ビジュアル・ストーリーテリングの3つのルール」が分かります。そしてNYTグラフィックスチームが、ユーザが明らかに要求し、応答するようなタイプの経験を作りあげるよう取り組みを変化させた主な方法も理解できるでしょう。

10. データジャーナリズムの「不都合な真実」

新聞をベースにしたビジュアルジャーナリズムの話題で、ワシントンポストのWonk Blogのクリストファー・イングラハム(Christopher Ingraham)によるこの記事は、まさに私の心に訴えかけてきました。それは、「うわべだけの権威と客観性」について語っています。数字やグラフィカルな表現は、読者によく伝わります。しかし、作り手であるわれわれは、何を見せ、何を入れ、どう見せるかについて多くの主観的な判断を挟んでいるのです。

そのほか

そのほかの2016年前半のハイライトです。

ケネディ・エリオット(Kennedy Elliott)のOpenVisトーク

ワシントンポストについて話していたら、あと2つの彼らの作品や同僚がありました。第1に、このとても興味深いトークと記事で、ケネディは、「人間の知覚に関する39の研究」の調査を振り返り議論しています。

NFLドラフトヒストリー

第2に(第3といったほうがいいかも)、このNFLドラフトヒストリーの分析は、信じられないほど詳細でカスタマイズ可能で変化に富んでいます。

FTのアプローチの変化

すでに昨年の半年間レビューでFT〔フィナンシャル・タイムズ〕が発表するビジュアライゼーション作品の変化と品質については指摘していましたが、これは本当に素敵な報告です。特にアラン・スミス(Alan Smith)がこのチームに入ってから数ヶ月で、この変化が起きました。

Chriming

枝、木、森のメタファーで鳥の鳴き声をビジュアライズしたソウルのスー・コ(Sook Ko)の美しい作品。

ナディー・ブレマー(Nadieh Bremer)

上で紹介したリサと同じく、ナディーは、(自己紹介によれば)「天文学者からデータサイエンティストそして独学のデータビジュアライゼーションデザイナー」です。魅力的なビジュアルプロジェクトやチュートリアル、トーク、リソースレビューを幅広く手がけていて、今年とてもアクティブでよく目にします。

WSJのハミルトン

ミュージカル『ハミルトン』についての本当にイノベーティブな作品で、「音楽史上もっとも密で複雑な韻を踏んでいる歌詞が実際どのようになっているか」を調べています。

ニコラス・ルージュ(Nicholas Rougeux)

ニコラスもデザイナーで、この数ヶ月わたしのアンテナにいつもひっかかっています。彼は面白く独創的で、非常にエレガントなビジュアライゼーションを探究しています。

Flag Stories

理論的にはとてもシンプルなテーマですが、たいへん素敵で密度の濃い、世界中の国旗の属性を調査したビジュアル分析が並んでいます。デンマークのスタジオferdios制作。

タマラ・マンツナー(Tamara Munzner)のあらたなブログ

タマラがブログを始めたおかげで、世の中よくなりました。

著者紹介

アンディ・カーク(Andy Kirk)は、イギリス在住のフリーランスのデータビジュアライゼーションの専門家でトレーナーです。
www.visualisingdata.com

Data Visualisation: A Handbook for Data Driven Design
Andy Kirk
SAGE Publications Ltd
売り上げランキング: 7,628

アートを救え! アート・コンサヴェーションの実際

2016年7月31日に佐賀大学芸術地域デザイン学部で開催されたキュレーター体験講座2「文化財を守る」のワークショップに作品を提供しました。オフセット印刷のポストカードです。Processingで制作した生成的タイポグラフィの実験的作品です。切手をはって投函した私信つきのはがきも用意しました。

はがき by sugimoto lab on Scribd

当日は残念ながら参加できなかったのですが、このはがきを汚したり焼いたりしたものを素材としたそうです。

キュレーター体験講座2「文化財を守る」(高校生向けプログラム「来てみんしゃい!佐賀大学へ」)

芸術表現基礎・地域デザイン基礎 成果発表展

2016年4月に開設した佐賀大学芸術地域デザイン学部1年生の科目成果発表展が、2016年7月23日(土)~8月10日(水)にかけて佐賀大学美術館で開催されました。

展示内容は、1年生が制作した作品やプレゼンシートなどです。
展覧会のサインを、急遽わたしが制作しました。

館外に掲示した看板はこちらです。

1年生115人が出展していることにちなんで、115個の丸をあしらいました。勘のよい学生はすぐに気がついたようです。

「芸術表現基礎・地域デザイン基礎 成果発表展」

日本デザイン学会でポスター発表しました

2016年7月2日(土)、長野大学で開催された「日本デザイン学会第63回春季研究発表大会」のポスターセッションで発表しました。

日本デザイン学会第63回春季研究発表大会
2016年7月2日
於:長野大学

発表タイトルとポスターは、以下の通りです。

杉本達應「手軽に扱えるデータ駆動型地図表現ツールの提案:『DataMapper』のプロトタイプ開発」
[scribd id=317416077 key=key-zHnXkSY02l0RYjqmwqlB mode=slideshow]

発表の梗概はこちらで公開されています。
http://doi.org/10.11247/jssd.63.0_208

セッションでは、たくさんのご意見をいただきありがとうございました。統計データを可視化するこのデータビジュアライゼーション・ツールは目下開発中ですが、今後公開を目指します。試用されたい方、ユーザーテストにご協力いただける方は、ぜひご連絡ください。